ぼくのせいじゃない。
文責:玉木英明

龍之介ちゃん、ここにすわりなさい。成績が悪かったのはなぜ?
ママ、お腹が痛かったんだよ。
どういうこと?
試験中にお腹が痛くて、試験どころじゃなかったんだ。
保健室の先生は薬をくれなかったの?文句いってやるわ。
いや、何も言わないで。
どうして?
だって、試験中トイレにこもりっきりだったんだ。
なんてかわいそうな龍之介ちゃん。腹痛、さぞ苦しかったことでしょう。

龍之介ちゃん、ここにすわりなさい。今回も成績が悪かったのはなぜ?
ママ、友人の夏目くんが悪いんだ。
どういうこと?
彼の教えてくれた試験範囲が間違ってたんだ。
夏目くんが「うそ」おしえたのね。電話で文句をいってやるわ。
いや、何も言わないで。
どうして?
だって、友人関係が悪くなるよ。
なんてかわいそうな龍之介ちゃん。友達なんか信用しちゃダメよ。

龍之介ちゃん、ここにすわりなさい。またまた成績が悪かったのは、なぜ?
ママ、担任の先生が悪いんだ。
どういうこと?
担任の先生の滑舌(かつぜつ)が悪くて、聞き取りにくいんだ。
先生のしゃべり方が悪いのね。電話で文句をいってやるわ。
いや、何も言わないで。
どうして?
だって、先生ににらまれたら困るよ。
なんてかわいそうな龍之介ちゃん。早く担任が替わればいいのにね。

龍之介ちゃん、ここにすわりなさい。先生が替わったのに成績が悪かったのは、なぜ?
ママ、塾の先生が悪いんだ。
どういうこと?
僕の塾の先生の教え方、下手なんだ。
塾の先生?わかったわ。電話で文句をいってやるわ。
いや、何も言わないで。
どうして?
やめて、他の塾にかわればいいよ。
なんてかわいそうな龍之介ちゃん。早く塾を替えましょう。

龍之介ちゃん、ここにすわりなさい。塾をかえたのに成績が悪いのは、なぜ?
ママ、パパが悪いんだ。
どういうこと?
パパは仕事ばかりで、疲れて僕のこと気にとめてくれないだろ?
パパが?わかったわ。今夜遅くパパが帰ってきたら文句をいってやるわ。
いや、何も言わないで。
どうして?
パパはお金を稼いでくれてればいいじゃない?
なんて心優しい龍之介ちゃん、あなただけが生きがいよ。

龍之介ちゃん、ここにすわりなさい。あなた、ずっと活躍できないのは、なぜ?
ママ、勉強ばかりしてるやつらが悪いんだ。
どういうこと?
勉強するやつらが、活躍できる仕事を全てもっていくんだ。
勉強するやつらが悪いのね?わかったわ。やつらに文句をいってやるわ。
いや、何も言わないで。
どうして?
勉強するやつらの仕事が、さらにふえれば、いい気味だ。
なんてかわいそうな龍之介ちゃん。あなたの周りは海千山千ばかりね。

龍之介さん、ここにすわりなさい。あなたにいい仕事とチャンスが巡ってこないのはなぜ?
ママ、社会が悪いんだ。
どういうこと?
勝ち組と負け組とを作り出す、不平等な社会構造に、僕は押さえつけられてるんだ。
社会が悪いのね?わかったわ。明日、街頭に立ってマイクで文句を言いましょう。
いや、何も言わないで。
どうして?
マイクで叫んだところで、社会はすぐには変わらないよ。
なんて不運な龍之介ちゃん、あなたは不幸な時代に翻弄される若者なのね。

龍之介さん、ここにすわって。あなたに好機が何十年もめぐって来なかったのはなぜ?
ママ、あんたが悪いんだ。
どういうこと?
僕が若いうちに、ヒトのせいにするなと強く叱ってくれなかったからだ。
ママが…私が悪いのね。わかったわ。自分で自分に文句を言いましょう。
いや、何も言わないで。
どうして?
ママが自分を責めてみたところで、時間はもどらないよ。
かわいそうな龍之介ちゃん。かってに流れた時間が悪かったのね。
ヒトのせいにするのは、やめようか。
すべては自分の責任です。
やがて結果は出てきます。
悪い結果は、自分の責任です。
そのかわり、素敵な結果は自分の成果です。
もっと、もっと、自分の人生に大きく賭けてみようじゃないの。
もっと、もっと、素敵な結果を夢見て動こうじゃないの。
もっと、もっと。
思いっきり。
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